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De temps en temps

トビタテ!留学JAPAN医学生の今とこれから

熱帯の国Day15&16 タイの大学病院における医学教育①

タイ 日記

 

保険制度の関係もあり、タイの大学病院はどちらかというと日本の市中病院に近い規模・患者層だと感じています。これから数回に分けてタイの大学病院における卒然・卒後医学教育についてお伝えしていきたいと思います。

 

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医学生=患者様の担当医?!

 

まずは医学生の病院での役割についてです。

 

タイの医学部は日本と同様の6年制であり、米国のように準備(学士)課程の修了は必要ありません。彼らの臨床実習は4年生のころから始まるそうで、日本とは比べ物にならない位に実践的な教育を受けています。例えば、病棟症例も6例程度の患者様を担当しており、これらの患者様の病歴聴取や身体診察などを主体的に行い、カルテ記載などの業務を行っています。つまりは患者様の「担当医」になるわけです。入院時のバイタルサインや病歴はいつでもプレゼン出来る位に準備することがもとめられるようで、これが出来なくて指導医に叱責される場面もありました。そうです、めちゃくちゃ厳しいのです。

 

また、6年生になるとExternと呼ばれるようになり、下級生の指導や手技の監督を行うことも業務の1つになります。面白いことにExtern以上になると研修医と同様に白衣の丈が短くなるので、医師との見分けがつかないようになっています。このことからもExternは「医学生」というよりは「研修医」に近い役割を求められていることがよく分かります。

 

そして今の病棟では毎日のように教育回診が行われており、指導医から直接、臨床推論や手技について教えてもらうことが出来ます。詳しい様子は前回のエントリーをご覧下さい。

 

ashitanoiryou.hatenablog.jp

 

さらには週2回程度の準夜勤と、休日も朝回診や当直の義務があるようで、こちらの医学生は非常にタイトな生活を送っているようです。

 

もちろん手技も沢山経験します。

 

手技については、学年別診療科別に行うべき処置や経験すべき症例を数値目標を設けて厳密に管理されています。

 

たとえば正常分娩の場合だと

4年生 2症例以上の分娩介助(指導医の監督下で)

のように具体的に設定されています。

(ちなみに、興味のある人は帝王切開の執刀も可能なようです!!)

 

タイの医学教育は総合診療医(General Practitioner)の養成を意識したものになっており、全ての科において基本的な手技や診察を1人でこなせるようになることを目標としているそうです。訴訟のリスクなどで実際は可能な限り専門医を紹介するものの、タイの医師は皆、分娩介助を行うスキルがあるようです。これは日本では考えられないことなので非常に驚きました。

 

日本の医学生のレベルは低いのか? 

「外国では〇〇だった、だから日本も〇〇するべきだ。」

という短絡的な思考が僕は個人的に嫌いなので、誤解を与えないように日本の卒前医学教育の強みにもきちんと触れておきたいと思います。タイの医学教育の素晴らしいところは沢山あるのですが、あくまでもこの国の教育スタイルは「臨床実務家としての医師養成」に特化したものだと感じています。一方で、日本の医学教育は「医学の進歩に貢献できる医師の養成」を意識しているのではないかと個人的には考えています。

 

例えばタイの学生は多くの患者を受け持ち、それらの診断や治療についての勉強を大量にこなしているのに対して、日本の医学生は少ない患者ながら文献的考察を通じて症例の持つ医学的な位置付けまで踏み込み、深く理解することが求められています。こちらの学生の臨床能力は非常に高いのですが、文献のレビューなどは学生のころにはあまり行わないようです。その点で日本の学生はこのようなエビデンスに基づくディスカッションについては強みがあると感じています。

 

また、高度な検査や画像検査についての知識も日本の学生は優れていると思います。タイでは身体診察や病歴聴取を重視し、コストの掛かる高度な検査や画像を避ける傾向にあります。なので、画像診断が肝になるような疾患については、タイの学生はやや苦手意識があるようです。無駄な検査をしないための努力は実務的には大変素晴らしいことなのですが、「医学の進歩への貢献」という観点で考えると、疾患を画像検査を含めた多角的な視点で捉えられることができるというのは将来の強みになりうるのではないでしょうか。

 

ということでタイの医学生のレベルの高さは賞賛に値しますが、日本の医学生も決して劣っているわけではないというのが、僕自身の個人的な見解です。さらには、日本のような経済的に恵まれている国は、自国民に良質の医療を提供するだけでなく、医療水準の向上に貢献すべきであり、医学教育を実務家養成に特化すべきではないと思います。もちろん、タイの医学教育から学ぶべきことは沢山ありますが、それと同時に「医学の進歩に貢献」が可能な人材の養成を強化していくべきではないでしょうか。つまりは全ての医師が、国際医学誌に投稿できるレベルの論文をかけるようにするためのアカデミックライティング・疫学・生物統計学・研究倫理学を医学部課程で徹底的に教える必要があると思います。なんだか色々飛躍してしまいしたが、医師として評価されるべき能力は臨床能力だけではないので、臨床能力と研究能力の醸成を効率良く両立させることが医学教育においては重要ではないかということです。

 

ではでは、今日はこの辺で。

 

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